携帯電話等の通信を抑止する妨害装置は,携帯電話やPHSが使用するものと同じ周波数帯の妨害電波を発信し,携帯電話が受信する電波状況を悪くすることにより、装置周辺で携帯電話などが使えないようにするものだ。
この装置が設置されると,出力にもよるが数メートルから数十メートルの範囲で,携帯電話やPHSは“圏外”の状態になり、発信も着信もできなくなる。
これだけの妨害電波を発する装置が,無許可で入手できるのだろうか? と疑問に思い,実際に販売されている商品を手に取ってみた。パッケージには「この妨害電波は免許のいらない規定値以下の微弱電波です」と書かれている。
しかし本当なのだろうか? 携帯電話の電波自体に免許が必要なのに,それを妨害する電波が微弱とは考えにくい。
携帯電話使用抑止装置に関する詳しい情報をWeb上で配信している「総務省 東海総合通信局」では,このようにコメントしている。
「携帯電話などの基地局からの電波の強さは場所によって異なるが,効果的に携帯電話などの通信機能を抑止しようとすると,最も電波の強い携帯電話の基地局からの電波に対抗できる,強い妨害電波を発信できるよう設計しなければならない。結果として,このような設備は電波法の規定でいう“微弱”を超えることになり,免許が必要だ」
結局のところ,携帯電話やPHSの通話を抑止する機能を“完全に”満たした抑止装置は,許可を得なければ違法だということになる。
なぜ“完全に”にこだわるかというと,違法かどうかは,実際に測定してみなければ分からないからだ。機能を満たさない不完全な抑止装置が存在する可能性もあるからだ。
一方,機能を満たす抑止装置は,かえって何らかの弊害を引き起こす可能性があるのではないかという不安が生じる。そんな疑問に,東海総合通信局は「装置によっては他の電子機器に障害を与えるおそれがある」と答えている。
ところで,実際に携帯電話妨害装置の許可が得られているのは,使用の目的が明白なコンサートホールや劇場,図書館などに限られてくるようだ。その場合でも,携帯電話などの通信が抑止されていることを利用者から承諾を取る必要があるなど,慎重な手続きが必要となっている。
なお,免許を受けずに使用した場合は,「不法無線局として電波法違反(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)に処せられる」(同局)とかなり重い罪となる。
しかし迷惑通話に関するマナーの低さやモラルについての声は大きくなるばかりだ。
最後にこんなエピソードを紹介しよう。
満員電車で1時間近く通勤するA氏は,電車内のマナーのない通話に嫌気がさし,市販の携帯電話電波遮断装置を1850円で購入した。適用範囲は4メートルと用途によっては十分な性能を持つ。
しかしA氏は一度も使うことはなかったという。なぜなら……「もし妨害したのが私だと分かったとき,どうなるか怖くてスイッチを押せなかった」からだという。
A氏が買った妨害電波発信装置は,正体をごまかすために“携帯電話”そっくりの形をしている。しかしA氏は,「それでも気づかれてしまうのではないか?」という恐怖感からスイッチを押せなかった。
いったい,迷惑通話に対抗する方法はないのだろうか?